第19話|「嫌われたくない」という私の弱さが、彼女を救えなかった
誰かの人生の中にある、
ひとつの選択。ひとつの想い。
それはきっと、
あなたの物語ともどこかで重なっている。
そんな物語を、ここに。
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九星氣学鑑定の中で、
実際にご相談いただいた内容をもとに、
個人が特定されないよう背景を変えながら、
ひとつの物語として記しています。
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キャンセルの連絡は、短かった。
「今日は都合が悪くなりました」——それだけ。
スマホを置いて、わたしはしばらく動けなかった。咲子さん、と心の中で呼んだ。四十三歳。二十四歳の彼と、ずっと一緒に暮らしている。
七月に一度、十月に一度。二回の鑑定が、頭の中で再生される。
七月の咲子さんは、最初から言葉が止まらなかった。信用されていないのか。愛情はあるのか。携帯を隅々まで見られる。イラついたときの当たり方がひどい。家事は全部わたしがやっている。悪いのはいつもわたしだと言われる。結婚の話もない。このままでいいのか。
言葉は次から次へと溢れてきた。
そのとき、わたしは何をしていたか。カードを引きながら、「彼はあなたに深い感情を持っているようです」「少し離れると関係が動き出しそうです」——そんな言葉を返し続けていた。
今思えば、あれは鑑定じゃなかった。
咲子さんの言葉を、わたしはちゃんと聞いていなかった。聞こえていたけれど、聞いていなかった。不安の向こうに何があるか、見ようとしていなかった。
十月はもっとはっきりしていた。彼が夜中に出ていった。連絡がとれない。他に女がいるのか——咲子さんはそれだけを繰り返していた。わたしが何を言っても、返ってくる言葉は同じだった。
「女ですよね?」
わたしはカードを見た。浮気の影は出ていなかった。本当に出ていなかった。でも、咲子さんには届かなかった。
そのとき頭の片隅に、運営から言われた言葉が浮かんだ。寄り添うこと。否定しないこと。相談者の気持ちに反することは言わないこと。
わたしはその言葉に、従った。
従いながら、心のどこかで思っていた。本当に言うべきことは、そこじゃない、と。
他に女がいるかどうかより、もっと大事なことがある。ずっと不安を抱えて、彼の行動に目を光らせて、裏切られていないか確認し続けて——その毎日が、咲子さんの望んでいた愛のかたちなのか。好きという気持ちが、いつの間にか手放せない執着に変わっていないか。
言いたかった。でも言えなかった。
正直に言う。怖かったのだ。
嫌われることが。「そんなことを言われるために来たんじゃない」と思われることが。占い師として、まだ日が浅いわたしは、その怖さに負けた。運営のルールは正しい言葉だった。でもあのとき、そのルールをわたしは盾にしていた。
看護師だったとき、わたしは言えた。痛くても、聞きたくなくても、患者に必要なことを伝えるのが仕事だと知っていたから。でも占い師になって、相談者に「嫌われたくない」という気持ちが生まれた瞬間に、わたしは何かを失った。
それが今日、キャンセルという形で返ってきた気がした。
気になって、カードを一枚だけ引いた。
カップの4が出た。目の前に差し出されているものに、まだ気づいていない。心の中に何かが残っていて、新しいものを受け取れていない——そういうカード。
咲子さんのことを思って引いたカードだった。でもそれは、わたし自身にも重なって見えた。
あのとき言えなかった言葉を、わたしはまだ抱えている。
咲子さんがいつか、自分の内側から答えを見つけてくれることを、祈っている。そしてわたしは、次に誰かが心を開いて来てくれたとき、今度こそ怖がらずにいられるか、自分に問い続けている。
これは、誰かの物語。そしてきっと——あなたの物語でもあります。
