第15話|あなたのこと、信じたいから 占い師篇
深夜二時を回った頃、着信が入った。
画面に表示された名前を見て、ああ、またゆきさんだ、と思った。責めているわけではない。ただ、今夜で三度目だということは、わかっていた。
八月にはじめて来たとき、彼の気持ちを聞きたいと言った。九月にも来て、他に女性はいないかと聞いた。そして今夜、十二月の深夜に——また同じ問いを携えて、電話を繋いできた。
「彼の服の匂いが変わったんです」
ゆきさんの声は、少し疲れているように聞こえた。
話を聞けば、匂いについてひろとの説明が二転三転したこと、車の助手席に見覚えのない映画のパンフレットがあったこと、最初ほど食事代を出してくれなくなったこと——小さな「もしかして」が、深夜に積み重なっていた。
カードを引きながら、私は思った。
この子が集めているのは、証拠じゃない。安心なんだ。
ここで星の話を挟みます。
ゆきさんの本命星は八白土星、月命星は一白水星です。
八白土星は、山のように揺るぎない安定を求める星。一度築いた関係への執着と誠実さは人一倍強い。でも、その分「変化」に対してとても敏感です。ひろとの小さな言動の変化が、ゆきさんの中では「関係が崩れるサイン」として受け取られやすい。
さらに月命星の一白水星は、深く感じ、深く考える性質を持ちます。表面には出さなくても、内側では静かに水が滲むように不安が広がっていく。深夜に電話占いを開いてしまうのも、この星の揺れ方です。
ひろとの本命星は四緑木星。風の星です。愛情表現が淡白で、自分の世界に没頭しやすい。でも、だからといって愛情がないわけではありません。四緑木星の男性は、関係が「当たり前」になってきたとき、むしろ安心しているサインとして自然体に戻ることがある。ゆきさんが「変わった」と感じた変化は、ひろとにとっては「落ち着いた」ということかもしれないのです。
「視たところ、他に女性はいないようですよ。深読みしすぎない方がよい、と出ています」
「……そうなんですね」
ほっとした声の奥に、まだ何かが残っているのがわかった。疑いが晴れても、不安の根っこはまだそこにある。
「ゆきさん、匂いのことや、パンフレットのこと——気になるなら、笑いながら聞いてみてください。疑いの目で問い詰めるのではなく、『気になってしまって』って、素直に伝えてみる。そうすると、彼もシンプルに答えてくれると思いますよ」
恋人になったからこそ、言葉が要る。星はいつも、そう教えてくれる。
電話を切った後、私はしばらくカードを眺めていた。
三度来たゆきさんは、次は来るだろうか。
来なくなったとしたら、それはきっといい知らせだ。自分を信じることができるようになった、ということだから。
あなたが誰かを疑うとき、本当は何を、信じたがっていますか。

