第18話|正しさの重さ(ひろ子篇)

誰かの人生の中にある、
ひとつの選択。ひとつの想い。
それはきっと、
あなたの物語ともどこかで重なっている。
そんな物語を、ここに。
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九星氣学鑑定の中で、
実際にご相談いただいた内容をもとに、
個人が特定されないよう背景を変えながら、
ひとつの物語として記しています。
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怖い、と思うようになったのは、いつからだろう。
ひろ子は、長く働いてきた。職場で積み上げてきた時間は、ちょっとやそっとでは揺らがないはずのものだった。何が大切か、どう動くべきか、どこに目を向けなければならないか——それを体で覚えてきた。
経験がある。根拠がある。だから、自信を持って動ける。
そのはずだった。
でも、ある時期から、静かな問いが浮かんでくるようになった。
「私は、高いところから見下ろしてるだけちがうか」
誰に言われたわけでもない。誰かに指摘されたわけでもない。ただ、自分の内側から、するりと出てくる声だった。
若い人との感覚のずれが、少しずつ積み重なる。現場のやり方が変わっていく。自分が長年信じてきたものが、時代の流れからはみ出していくような——そのかすかな感覚が、消えない。
おばちゃんになるほど、怖くなる。積み上げてきたぶんだけ、失いたくなくなる。正しくあり続けることへの執着が、いつの間にか重くなっていた。
今年の春、職場に若い男性が新しく加わった。以前にも一度、一緒に働いたことがある相手だった。話が長いな、と思っていた。でも、それだけだった。
いざ一緒に動き始めると、少しずつほころびが見えてきた。決めたことを直前に覆す。分担をうまく引き受けない。「俺はやってない」という言葉が返ってきたとき、ひろ子は気づけば声を荒げていた。
子どもたちの前で。
そのことは、ひろ子自身が一番、後悔した。怒りよりも、その後に来た静かな波の方が、ずっと手強かった。
私が間違ってたんやろか。
若い人に対して、強く出しすぎてたんやろか。
彼が少しずつ体調を崩していくのを見ながら、ひろ子の中でその問いが大きくなっていった。血圧が上がり、体が重くなり、やがて心療内科へ行くことになった。軽い鬱だと、診断された。
私のせいで——そこまで思ったわけではない。でも、完全に切り離せる問いでもなかった。自分の正しさが、誰かの重荷になっていたとしたら。その可能性が、胸の奥でくすぶり続けた。
だから、占い師に電話した。
大きな答えが欲しかったわけではない、と思う。ただ、誰かに話したかった。お金を払ってでも、ちゃんと聞いてもらいたかった。
職場では言えない。家族には心配をかけたくない。弱音を見せるほど、ひろ子は器用ではなかった。ただ、静かな場所で——自分の揺れを、声に出してみたかっただけかもしれない。
電話口でひとつひとつ言葉にしながら、ひろ子はふと気づいた。
自分は、怖かったのだ。
正しくあろうとし続けることが——誰かを傷つけているかもしれないという、その可能性が。怖かった。ずっと、怖かった。
占い師は、こう言った。
「勝とうとしないことが大事ですよ。でも、あなたが間違ってたわけじゃない」
春には流れが変わる、とも教えてくれた。
ひろ子はその言葉を聞きながら、少しだけ、肩の力が抜けた気がした。正しかったかどうかより、ずっと本気でやってきたことは本物だと——そう受け取った。
正しさは、鎧ではなかった。
それは、ひろ子が長い時間をかけて積み上げてきた、本物の何かだった。怖くなるほど、本気でやってきた。それだけは、確かだ。
あなたにも、そういう「正しさの重さ」を抱えてきた時間が、あるだろうか。
これは、誰かの物語。
そしてきっと——あなたの物語でもあります。
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