第14話|あなたのこと、信じたいから ゆき篇
九月の夜、ゆきは電話占いに繋いだ。
付き合って五か月になる。最初はよかった。ひろとは「どこ行く?」じゃなくて「ここ行こ」と言える人で、それがゆきには心地よかった。でも夏が過ぎる頃から、何かが少しずつ変わっていった。会う回数が減り、LINEの返事が短くなった。前は「今日も可愛かった」と送ってきてくれたのに、最近はスタンプだけで終わることも多い。
倦怠期、というやつかな。
そう思おうとするほど、胸の奥にじわっと不安が滲んでくる。
「彼氏さん、私以外に気になっている女性、いますでしょうか」
それが聞きたくて、でも本当は聞きたくなくて。
電話の向こうで、少し間があった。
「……ひろとさん、今は恋愛とは別の方向に熱が向いているように視えますね。お仕事や、趣味のこととか。他に女性がいるというわけではなさそうですよ」
ほっとする気持ちと、「じゃあなんで」という気持ちが、同時にやってきた。
「趣味、多い方ですか」
「……はい、すごく多いです」
「そうですね、自分の世界をしっかりお持ちの方のようですね」
ここで少し、星の話をさせてください。
ひろとの本命星は四緑木星。その名の通り、風のような性質を持つ星です。あちこちに関心が向いて、多趣味で、好奇心が旺盛。人当たりも良く、誰とでも自然に話せる。でもその分、ひとつのことや、ひとりの人に向ける熱の濃度が、外から見えにくいところがあります。
愛情がないのではありません。ただ風は、留まることより、流れることの方が自然なのです。ゆきが「最初ほどの情熱がなくなった」と感じたのも、ひろとが冷めたからではなく、ようやく自分のペースに戻ってきた、ということかもしれません。
一方、ゆきの本命星は八白土星。山のような、どっしりとした安定を求める星です。一度信じた関係は大切に守りたい。でもだからこそ、その関係が揺らぐと感じたとき、深く不安になる。確かめずにはいられなくなる。
風と山。動くものと、留まるもの。ふたりの間には、そういう根本的な違いがあります。
「ゆきさん、少し聞いてもよいですか」
電話の向こうの声が、静かに続けた。
「彼のことを考えすぎて、ご自身の喜びが後回しになっていませんか。彼の反応が薄いと、自分が足りないのかなって感じてしまうこと、ありませんか」
言葉が、すとんと落ちてきた。
「……そう、かもしれないです」
「でもそれは、彼の表現スタイルの問題であって、ゆきさんの価値とはまったく関係ありません。まずゆきさん自身が楽しめることを、少し増やしてみてください。彼に尽くすばかりではなく、ゆきさん自身の時間を大切にする。そうすると、ふたりの間にちょうどいい空気が流れてきます」
電話を切った後、ゆきはしばらく天井を見ていた。
私が聞きたかったのは、ひろとの気持ちじゃなかったのかもしれない。自分を信じることができなくて、彼の愛情を鏡にしようとしていた。
窓の外、九月の空はまだ残暑の気配を帯びていた。
あなたは今、誰かの気持ちを確かめることで、本当は自分自身を確かめようとしていませんか。
▶︎【後編】へつづく
